|
|
メトロの中に入ると、そこが本当に小さいところだとわかってビックリする。新宿にあった日清パワーステーションというライブハウス(残念ながら今はないけれど・・・。)をそのまま横に2つ並べたくらいの所なのである。ステージ前からフロアの一番後ろまでは5メートルくらいしかないと思う。でも、狭くて小さいけれども、中にいるファンたちはとても穏やかで、「我先に」という血走った感じがなく、温かい空気に包まれていた。この場所にいられることを本当に幸せだと思った。みんながそういう気持ちだったのかな。
開演15分位前くらいからすでに大盛り上がり。皆が2階を見てザワザワ。なんだろう?と見上げるとそこにはビリー・コーガン・シニアがいた。頭もビリーと同じように坊主にしているからほんとに双児みたい!笑いかたもテレかたも、とにかくそっくりで、自分もすっかりテンションが上がってしまった。
しばらくするといつものAPHEX TWINのオープニングSEが流れはじめる。フロッグスの1人と女性が1人出てきてなにか挨拶文を読み上げた。どうもシカゴ市長からのメッセージらしい。その後大きなボードを持ったピエロがステージを行ったり来たり「今日は3部構成!」と、会場がよりいっそう盛り上がったところで客電が落ち、『Mellon Collie and the Infinite Sadness』が流れはじめた。
ゆっくりとメンバーが登場する。ジェイムスは刺繍の入った赤いスーツ。ジミーは黒のベスト。メリッサは黒のラメのドレス。そしてビリーはいつもの黒のタートルに、足元はいつもの黒い編み上げブーツ。でもいつもの黒のワンピース姿ではなく、スペシャルらしくシルバーのものを着ていた。
みんなが息を飲んだところで始ったのは『Rocket』のイントロだった。うわー、反則だよー、と思いきや、なぜか『Tonight Tonight』が流れ出してしまい、一旦演奏が停止。少し緊張していた空気が和んだようだった。そして再度演奏が開始される。私も大好きな曲で、みんな大声で歌っている。さらにアルバムgishからの曲『I am one』『Rhinoceros』へと続く。『Rhinoceros』ではイントロ部分で、ジェイムスに間違ったギターが渡されてしまったらしくおかしな音が出てしまった。ビリーがジェイムスの方を「あれっ?」という顔で見ていたが、すぐさまギターは交換され、無事に演奏は続けられた。そして急速に高まったみんなの気持ちを、一旦おさえるかのように『Shame』が演奏される。JIROさんが「ジ、ジミーのShameが聴けるなんて....」と呟いていた。確かに彼はこのアルバム制作時にはバンドに在籍していなかったのだから、とても貴重な体験が出来たと思う。そしてつづいて演奏されたのは『Porcelina of the vast Ocean』。みんなと一緒にココにこられて本当によかったと、心底思った。
それから再びハードなナンバーへ。『The Everlasting Gaze』が演奏される。すっかりお馴染みになったこの曲では、あのイントロのフレーズが始ったとたんにモッシュが起こる。続いて『Bullet with Butterfly Wings』みんなやっぱり歌う歌う。ビリーは「ラストショウだよ。みんな本当にありがとう」と言った。今日初めてのMC、ファンもそれに答える。ビリーはジェイムスと二人でじゃれあって、彼等やメトロのスタッフにとって懐かしい曲をちょこっと披露。それから彼は「スペシャルプレゼント、メトロでの僕等のファーストショウのCDをプレゼントするよ」と言った。ビリー、それってほんとに凄いよ。今日、私達に最初と最後のショウをプレゼントしてくれるというのだから。
小休止のあと披露されたのは『Thru the eyes of Ruby』だった。私達みんなが好きな曲。メロンの頃のビリーって、とにかくギターがすごいと思う。これが最後なのだと思うと、Pumpkinsとしてのビリーを、足の先から頭の先まですべて見逃したくないと思った。次の曲ではビデオ「vieuphoria」にも出演してるFROGS がゲストとして登場。派手なコスチュームで彼等の曲を披露してくれた。そしてさらにゲスト登場、ストロベリーというショートの金髪で小柄な女性が現れた。ビリ−の紹介では「アメリカでとっても有名」なのだそうだ。彼女と1つのマイクで『To Sheila』を歌う。いいな、とってもかわいらしい。続く曲はまたまた名曲『Mayonaise』。ビリーは何度も何度もジェイムスのことを見ながら演奏していた。そして『I Of the Mourning』で第1幕は終了。「セットを交換するからちょっと待ってね!」とピエロがふたたび登場した。「次幕まであと5分」なんていうボードをもってステージをいったりきたりしてくれていた。
第2幕が始まる。ステージ上には日本公演の際にも見られた、アコースティックセットが用意されている。メンバーが登場。ジミーはボンゴを持ってて…と、ここでまたもやゲストが登場した。なんとそれはマット・ウォーカー。ジミーが一旦バンドを解雇になった時、ドラムとして正式に参加していた彼だ。披露された曲は『Muzzle』だった。2000/5/23のライヴ中にビリ−が初めて「解散します」と言った直後、演奏されたのも曲もこの曲だった。この大切な曲をジミーがマットとともに演奏しているのを見て(ダーシーがいないことがとても残念だったけれど)バンドに残った深い傷は完全ではないにせよ、癒えたのかもしれないと思った。
ビリーは次の曲に入る前に二階を指差し「僕のガールフレンドがいるよ。 I Love you soon!」と、とてもうれしそうに言った。案の定、披露されたのは『Stand Inside Your Love』。明日からはしばらくゆっくりできるハズだから今日だけは私達にビリーを貸してねー、なんてそんな風に思いながら聴いた。
つづいて『Perfect』が披露された。Perfectのビデオクリップ・・・不幸な形でPerfectになってしまったあのストーリーを思い出す。まだダーシーがいたんだよな。なんか今日はダーシーへ贈られた曲のように思えた。そしてビリーとジェイムスの2人で演奏する『This Time』。ダーシーの事、バンドのこと、いろんな意味を持っているみたいで、胸がいっぱいになった。そのままマシーナ2からの『Go』というジェイムスの曲が披露される。何度も何度もビリーはジェイムスのことを見ていて、睨んでるようにも見えるくらいだった。ジェイムスが危なっかしそうにギターをひく様をずっとこんな風に見てきたんだろうね。
またちょっとしたセット替え。見ると、ビリーは白っぽいキーボードの前にちょこんと座り、「これから『Last Song』をやります」と言って、ヨーロッパツアーの際にも参加していたキーボードディストのマイクと共に演奏をはじめた。キーボードの位置のせいで、ビリーの鍵盤を叩く指を見ることが出来なかったのが残念だったけど、とても素敵だった。ちょっと納得いかなかったのか、すねるように鍵盤を叩くビリーも可愛らしかった。
その後、ジミーとメリッサも加わって『Age of Innocence』が演奏される。そして2幕の最後は『33』。ビリーは33才でPumpkinsをやめることを、この曲を作った時に考えていたという。第2幕はバンドやそれぞれ大切な思い入れのある人達、ファンへのメッセージが込められたセットだったように思う。
またまたピエロが登場、気持をなごませてくれる。自分達を含め、みんなかなり疲れてきているハズなんだけれど、とっても親切でスタッフの投げるボトルの水をまわして飲みあったり、「今日はこのショウのためだけにシカゴに来たの?そりゃ、とってもCoolだよっ!」て声を掛けられたりしてうれしかった。
第3幕が始まる。ここから先は我を忘れて楽しんでくれ!と言わんばかりのセットが披露されていく。私はユナイテッド・センターでStarlaが披露されたと言うのを聞き、「今日も披露してくれたらどんなにうれしいだろう」と思っていた。『Tonight, Tonight』『Siva』『Fuck You』そして隠れた名曲『Drown』が演奏され、感激していると、そのまま流れるように始まった曲は『Starla』だった。この曲はパイシーズに納められているとても長い曲だ。私の恋人はかつて、この曲の後半のギターソロについて「ここでビリーはなにを考えていると思う?なにか意味があると思う?」と私に聞いたことがあった。そして彼は「たたたたギターが弾きたかっただけなんだろう」と言った。そうなのかもしれない、今日のビリーはまさに無心でギターを弾いているようだった。素晴らしかった。
『If there is a God』『Cash Car Star』と、マシーナ2からの曲が披露される。続いて『Rock On 〜 Heavy Metal Machine』。すっかりお約束になったこの曲では、あちこちでヘヴィメタポーズの腕があげられている。ビリーは自分で歌わずに、何度も手を差し出して、ファンに歌わせようとしていた。そして3幕のラストは『Today』。「最後の曲だよ。一緒に歌ってね」とビリーが言う。もちろん大合唱だった。ビリ−は「今日は本当に最高の日だよ、Today is the greatest!」と言ってステージを去って行った。
けれどもまだまだここで終わる訳がない。We want more!!とアンコール。足を踏みならしたり拍手したりして彼等の再登場を待つ。しばらくしてビリーがろうそくをもって登場した。ドラムセットの前の、ちょっとした台になっている所にそのろうそくを置き、火を灯す。その後、彼が紹介した4人目のゲストは Billy Corgn Sr.だった。彼はフライングVでビリーとともに『For Martha』を演奏してくれた。灯されたろうそくはビリーの大切なお母さん。ビリーは少し涙ぐんでいた。
その後も親子共演を見せてくれる。お父さんが「ビリーは3歳の時これくらいだった」とか言ってみんなを笑わせる。(手であらわしたサイズは30cmくらいの幅しかなかったのでとても可笑しかった。)そしてさっきとは別のフライングVでブルースナンバーを披露してくれた。とても気持よさそう、フライングVが好きなんだね。ビリーは心配なのか、時々顔をゆがめたりしながらお父さんの事を何度も何度も見ていた。この曲ではジェイムスがベースを担当するなど、珍しいパフォーマンスを見ることが出来、うれしかった。
2回目のアンコール。スペシャル・ゲスト!と言って紹介されたのはチープトリックのRick Nielsen。アドアの武道館公演の時、ラストに彼等の曲を武道館ライヴバージョンでそっくりそのままコピーして歌ったくらい、ビリーは彼等の大ファンだという。リックもこのステージにいることが本当にうれしいという感じで『Cherub Rock』を演奏してくれた。もちろんショウはまだまだ終わらない。
3回目のアンコール1曲目は『Disarm』。イギリスでもそうだったけどアメリカでも大人気のこの曲は、イントロが始まっただけでみんな大喜びだった。大合唱。そしてジミーがドラムセットから離れ、アコースティックギターを肩にかけるのを見て、ラストの1979が演奏されるのだな、と思った。いつものように会場のライトが明るくなる。ビリーは最後にできるだけみんなの表情が見たいと思っているのだろうか?マットも再登場し、ドラムに座る。演奏前にジェイムスがマイクを持ち、バンドを紹介し始めた。いつもより緊張してるようにも見える。バンドメンバーがどこ出身なのかを具体的に紹介してくれた。途中、ビリーがジェイムスに耳打ちをした。ダーシーの事を言っていたのかもしれない。クリスやマイクの紹介が終わると、ビリーとジェイムスの口から、ダーシーへの感謝の気持が述べられた。最後にジェイムスを紹介するビリー「えーと、どこ出身だっけ?」とニコニコしながら、この最後になるであろうバンド紹介を明るく締めくくってくれた。 ジェイムス、Pumpkinsのメンバー紹介の役目も今日で最後だねと、ちょっとさみしい気持で『1979』を聴いた。彼等はステージを行ったり来たり、何度も何度も手をふって、去っていった。
始まってからとうに4時間近く経っているだろう、、、2階のライトもつき、ショウは終わるかのように見えた。けれどもだれも帰ろうとしない。自分達ももうくたくただった。けれども「We want more!」とアンコールをせずにはいられなかった。古くからのビリーの友人だと思われる人物が、その小さなアンコールに「もっと大きな声を出せ!」「これで終わりでいいのかい!?」とステージ上に現れた。アンコールは大きくなり、「Silverfuck!Silverfuck!」というリクエストに変わっていった。やまないアンコール。照明はついたままだったが、大歓声の中、彼等は本当に再登場してくれたのだった。そして披露された『Silverfuck』は20分以上にわたるもので、まったく別のアレンジになっていた。ビリーのその独創性にもかかわらずバンドは見事に素晴らしいプレイを見せてくれる。ビリーの頭から汗が流れて、その汗が鼻をつたって滴り落ちていた。本当に最後なんだなと思った。
メンバーはみんな本当に疲れていただろう。ダーシーを思ってか、いつもより控え目に、でも一生懸命プレイしていたメリッサは4時間半にもわたるこのステージをよく乗り切れたなと思った。最後にバンドに来てくれたのがあなたでよかったと感謝せずにはいられなかった。そしてジェイムスもジミーもとても満足した表情でステージを去っていった。
最後に残ったビリーは、何度も何度も手をふり、投げキッスをし、全ての人に感謝の気持を伝え、去っていこうとした。けれどもこらえ切らなくなった涙がこぼれ落ち、ステージ脇にいたタミーさんの肩に抱かれると、しばらく動かなかった。2人のスタッフに支えられ、崩れ落ちるようにステージを去ったビリー。彼はそのステージ脇で膝に顔を埋めて思う存分泣いたのかもしれない。
The Smashing Pumpkinsはこうして幕を閉じた。 |
|
|
|
|